コラム7【子育て奮闘記(独立心)】
【子育て奮闘記(独立心)】
ユーユーとの哀しい別れの後、また一人ぼっちに戻ったクンクン。わかっているのかいないのか、何事も無かったかのような毎日を過ごしている。ワンパクの真っ盛り…、いよいよ手が付けられないクンクン、散歩に行くのが待ち切れず、今度は自分より大きい烏骨鶏を相手に狩の稽古が始まった。
相手に選ばれた方はたまったもんじゃあない。なにせクンクンの餌は毎日、生の鶏肉。
一見ふざけっこのように見えるが、なにやら美味そうな匂いがするではないか。死にもの狂いで逃げる烏骨鶏、クンクンはそれを必死に追いかけるのだが、残念なことにタックルすら及ばず…。
いくらクンクンでも、さすが烏骨鶏の体力にはかなわない。ぶっちぎりで烏骨鶏の勝ち。ヘナヘナと座り込んだクンクンは、舌を突き出し、ハアハアやっている。
保護センターの広場にやっと平穏が戻った。
しかし、可愛がっている烏骨鶏を食われちゃたまらんが、まだ狩のできないクンクン、いつかは狩ができるようにならないと、一人前にはなれない。いつかは、烏骨鶏が食べられてしまうことがあるのだろうか? 妙に複雑な気分だった。
クンクンは、お世話に当たるスタッフをちょっとだけ煩わしく思うようになってきたらしく、かくれんぼが、笑っていられなくなることがしばしば…。脱走には気をつけるようスタッフ全員に促した。
そんな折、気仙沼地方振興事務所からまたしても電話。クンクンとの出会いもここからの電話で始まった。
ワン仔と間違えられて育てられたクンクン。初めて見たときはびっくりするほど小さかったのが嘘のよう…。
今回の電話は、キツネではなく、カモシカについての相談だった。
民家の庭先で山羊のように『メエメエ』鳴いているという。あわせて、数日前から藪の中で鳴くこの声を聞いていると家人が話す。毎日、飲まず食わずで母親を探しあぐねいて、鳴きじゃくっているカモシカの仔の姿を感じて取れた。
電話の向こうの事務所職員の方に背中をつまんでみるようお願いすると『しなびてるみたいで皮膚は、ゆっくりしか戻りません』…既に脱水症状が始まっている。「緊急治療が必要です。すぐに病院につれて行ってください」そうアドバイスすると電話を置いた。
きっとまた今度のカモシカは優しいお母さんかお父さんが見つかるよ。元気になるといいね。クンクンの頭を撫でながらカモシカの無事を祈った。
クンクンは知らないでいるうちに大人になっていた。
結局はそのカモシカをここで預かることになったのを知っていたのだろうか?
このカモシカの仔がやってきた日の翌日、ユーユーの眠る丘で、クンクンは忽然と姿を消した。
人一倍可愛がってもらっていたクンクンだったが、とても手が掛かり、これにカモシカが加わると皆がてんてこ舞いになる。きっとそれを悟っていたのかも知れない。
やはりスタッフの動揺は隠せない。毎日夕暮れと早朝、クンクンの捜索が続いた。午前4時にはあの丘に皆が集まった。クンクンのためにと、置き餌…食べてくれているのか、毎朝お皿は空っぽ。
一週間ほどしたある日、お皿には一枚の木の葉が残されていた。クンクン一流のユーモアだったのかも知れない。その翌日、クンクンはお皿までも隠してしまった。
『もういいよ、ありがとう楽しかったよ。あとは自分でできるから…』
今もスタッフ達の心にはクンクンのそんな言葉が聞こえてくる。