コラム6【子育て奮闘記(兄弟)】
【子育て奮闘記(兄弟)】
キツネの仔、クンクンにかかりっきりの毎日だったところに、丁度いいチビ友が出来た。
クンクンと同じくらいの時期に生まれたと思われる仔ギツネがやって来た。
仙台市の郊外で発見され、保護された時にはカラスにいじめられていたとか…。体重は3s弱、カラスよりは、ずっと大きくとも、やはり弱っている時には、攻撃の対象になる。
何日か飲まず食わずであったのか、救護に持参した肉片をむさぼるように食べていた。
どういう経緯で親ギツネから離れていたかは判らないが、カラスが突き廻していたことで、既に生存が危うかったことは明らかだった。血液検査で極端に悪いデーターは出なかったものの、やはり体力はかなり落ちている。
とにかく落ち着ける場所と、おいしい食べ物にありつけさえすれば、元気にはなってくれるはず。
治ってもいないのに、クンクンと野原を駆けっこすることをもう頭の中で描いていた。
飼育ケージから出して試しに会わせてみると血のつながりが無いのが嘘のよう…。瞬時にして兄弟のようになってしまった。
友を二つ重ねてユーユーはどうだろうか?新入りの仔ギツネの名前はすぐに決まった。
戸惑う弟分をクンクンはお兄ちゃんらしくリードする。飼育室の通路はたちまち遊び場になった。
飼育スタッフも、手がかかるこの二匹を遊ばせてやるために、時間を十分に取ることにした。 兄弟の多い動物はこの時期に社会学を学び、生きていくためのルールを身に付ける。孤児の二匹にとっては幸いなことだった。
テリトリーをきちっと管理するキツネにも珍しい習性がある。
キツネを扱うことになって、慌てて調べて講釈は恥ずかしいのだが、群を作らないキツネも子どもの時期であれば、よその子との交流もあるし、孤児を別な親ギツネが面倒を見ることもある。出産の経験の無い若いメスは、子育てを手伝うこともあるそうだ。
自然界では、せっかく生まれて来た仔ギツネも、大人になるまでの生存率は約二十パーセント。他人の子どもだろうがなんだろうが、必死でそだてる。生態を知らず、キツネに抱いていたイメージは…ずる賢く、小悪党…なんだか悪いことをしたような気がする。けなげに子育てにいそしむ姿は胸を打つ。思わず「がんばれ!」そういわずにはいられない。
ある日、スタッフみんなの人気者になっていたユーユーが突然の発病、夢遊病のように意識不明のまま歩き続けるという奇妙な病気にかかってしまった。
食が途絶えてみるみる衰弱、結局病院で淋しく息を引き取ってしまった。
訃報にショックを隠せず、涙にくれるスタッフ。
帰って来たユーユーはまだやわらかく、温もりも残していた。揺り動かせば起きてくれるような気がしてならない。
ユーユーを連れ、クンクンと遊びまわるはずだった原っぱに来た。みんなで丁重にお別れをした後、この原っぱの土に還すことにした。
「今度はクンクン連れてくるからね、きっと一緒に遊べるからね。少しだけ寝んねしようねぇ…。」
生存率を決めたのが誰なのか、それが恨めしかった。