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コラム5【子育て奮闘記(仔ギツネの巻)】


【子育て奮闘記(仔ギツネの巻)】

 キツネなど育てた事がない私のもとへ、やってきたのは、クンクン。先月号で紹介したあのクンクンは、恐ろしく成長が早かった。

 やって来た時の体重が680g、肉の塊とドッグミルクを同量ずつ与えたところ、一週間後には1200g。思わず計測を間違えたかと慌てたが、計った数値に間違いはない。毎日見ていると気付かないのだが、日を置いて来て下さるボランティアさんは、『うわーっ、大きくなったねぇ…』と大騒ぎ。確かに犬などとは大違いで、生後一月ちょっとなのに、もう肉塊に唸ってむしゃぶりつく。

 クンクンがやってきて一月が経ちました。
 しかし、体重が思ったより増えていません。
 もう生後2ヶ月になろうとしているのに、ブレーキがかかったように成長が止まった。そういえばこの数日、食欲がないのか、餌の肉を残すのが目立った。

 いつものようにまたクンクンを抱きしめながら、クンクンの健康に問題がないのか、頭の中でイメージを広げる。

 我々人間には上等なお肉でも、ただの肉片、クンクンの総合的な栄養のバランスを考えると、これは全く偏食の極み。野生のキツネはネズミを丸ごと食べる。栄養のバランスをそっくり頂く…。やはり、毎日肉片だけの食事は人間だって健康を損ねるはず。

 早速、寅次郎(我が家の猫)にネズミの捕獲を命令、クンクンにちょうど良い大きさのネズミを獲って来させた。寅次郎は、我が家自慢のキャラ、保護した動物のためと思っているかどうか、肉食の動物を飼育するときは、時折こうしてお手伝いをしてくれるのである。

 ある日、眼を放した隙に、1m程の高さから、飛び降りたクンクン。前足を痛めてしまった。慌てて病院へ急行、診察の結果骨に異常はなく、くじいただけだということだった。

 安心して帰って来、しばらくケージの中でおとなしくしていてもらうことにした。

ケガの功名という言葉がある。実はこのことがクンクンの危機を救うきっかけになった。

 くじいた足がどうにも心配なので、帰りがけ、クンクンのケージを覗いてみると、やけに呼吸が荒く、舌を出してハァハァいっている。他の動物達はすやすや寝ているのに、どうもおかしい。クンクンを連れ、深夜も営業する若林救急動物病院に向かった。

 悪い予感が的中、クンクンは肺炎を起こしていた。

 体はとても正直なもので、体重変化が止まったこと、食欲の停滞や、栄養のバランスの問題が症状となって出た。

 ケージの中では自分の食べたいものが選択できない。人間が機械的に餌を与えるだけでは、本来の健康を維持できないのだった。


 病院から帰ると、クンクンはたまたま床に落ちていたドックフードを拾って食べた。
 以前は肉と混ぜないと食べてくれなかったのに、今度は拾い食いである。
手のひらにこんもりドックフードをあげると、唸り声を上げながらむさぼりついた。手まで噛み付かれるかと少々冷や冷や…。動物は嗅覚で自分に不足しているものがわかるという。

 理屈がわかっていても、こんな単純なミスをやってしまう。

 人間は永久に病院なしでは生きていけないようだ、野生の逞しさにまた感動のため息だった。

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